地表から大気中に入った水蒸気は移流され雲を主体とする大気擾乱によって地表に戻されるものと大気中に残るものに配分される。 この配分に関わる大気擾乱は雲から大規模擾乱スケールまでの間にいくつかの階層構造をなしている。水循環において階層構造のそれぞれは固有の役割を持って いて、スケール毎に段階的に水の集中化と大気中への再配分を行なっていると考えられる。しかしながらあるスケールの現象がその階下の現象をどのように発達 させるのか、あるいは小スケールの擾乱がその階上の擾乱にどのような作用をするのかなどは、重要な問題であるといわれながらも、その構造やメカニズムを調 べるに十分なデータを観測から得ることが困難であるためほとんど明らかにされていない。そのようなデータを得るには観測だけでは不十分で、雲を時空間解像 度においても物理過程においても詳細に表現できるモデルを用いてシミュレーションする必要がある。ここではこれまで開発を行なってきた雲を解像する数値気 象モデルCReSS (Cloud Resolving Storm Simulator)を用いる。研究課題名:「マルチスケ−ルの水循環過程に対する水の安定同位体の応用」 (対応教官:檜山哲哉)
本研究課題では、雲を詳細に表現し、かつ並列計算により大規模な領域を1kmメッシュでシミュレーションを行うことにより、領域内に起こるすべてのス ケールの水循環に関わる現象を、パラメタリゼーションというフィルターを通すことなく、最小の雲そのものから大規模まで、すべてを陽にシミュレーションす ることを目的とする。これにより領域水循環の階層構造のすべてのスケールの現象を同時に共通の格子点で陽に表現することができ、それぞれのスケールの水循 環に果たす役割、そのプロセスとメカニズム、水循環の実態、さらに各スケール間の力学的関係を明らかにする。
水の安定同位体は、主に海水を基準とした水サンプルの同位体比(δDとδ18O)および、d値 [d値(‰)=δD−8×δ18O] の形で表現される。これら水の安定同位体の3つの指標は、従来から蒸発・凝結時の同位体分別における平衡・非平衡過程に基づいて、水の起源の特定や、起源 を異にする水の混合過程を論ずる研究に、多く用いられてきた。例えば、同位体比の変化における気温効果や内陸効果、高度効果により、主に降水の広域的な水 循環過程を解釈するための研究や、大陸内部での水の降水・蒸発散等のリサイクル過程の研究、そして、ある地点で採取した地下水から、その涵養源を推定する 研究等に利用されてきた。
本研究課題では、水の安定同位体を用いて、従来行われてきた広域的な水循環過程に供するための研究をさらに推進するとともに、従来までは手法と測定精度 の限界から難しいとされてきた局域的な水循環過程(例えば、メソスケ−ルの雲・降水過程)の研究に供するために水の安定同位体を用いる方法論を探り、それ を用いた新たな観測の企画や研究プロポ−ザルの作成を目指す。
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