皆様,小池です.
現在,[GAME-T]メーリングリストにおいて,GAME総括に関するホットな議論が始まってお
ります.誠に勝手ながら,これは一領域研究の議論として留めるよりも,GAME全体で議論
したほうがよいと判断し,これまでの経緯を踏まえて,私見を述べさせていただきます.
なお,ご本人が本MLに投稿されたわけではありませんし,長文になりますので,議論の本
質と思われる部分を私なりにまとめてさせていただきます(でもやっぱり長文になってし
まいました).
まずはじめに,GAMEの企画段階では行政の立場で,また現在はGAME-Tと深く連携をとって
活躍されている研究者の方から下記の趣旨の投稿がございました.
「GAMEは、単なる観測の集合体ではなく、一セットの目的をもったプロジェクトで
す。GAMEの成果・反省点というのであれば、まず、その目的に向けてどのような成果が
あったか、何がわかり、何が新たな課題として提示されたかを検討するべきではないかと
思うのです。...中略...個別部品がそれぞれ学術的に高く評価できるだけでは十分
ではない、大目標に近づくためにそれぞれがどう貢献するかという視点を常にもちつづけ
ていなければならないと思います。それが社会に貢献することを求められる気象学・水文
学の宿命であり、長期的にみれば、日本国内でも、国際的な場でも、大目的の議論が常に
真摯になされていなければ、社会がこの分野に研究費を注ぎ込むことはありえないと思い
ます。」
極めて明瞭なメッセージで,当初予定に対してプラス1年の執行猶予を頂き,計6年を費
やしたGAMEを現時点で総括するために,GAME企画時と同等の情熱とエネルギーを
もって取り組む時期にきていると思います.さらにこれを分かり易く示す例として,下記
を引用されました.
「安成さんは、1995年当時、『モンスーンの年々変動に及ぼす陸面の影響を評価し、年々
変動メカニズムを明らかにする』の目的の説明に、ヒマラヤの積雪とインドシナ半島の降
雨量の増減が何となく一致するように見えるグラフを見せてくださいました。私は、「嘘
でしょう?」と疑いながら、まあ騙されたわけです。何と、1999年の時点で、小池さん
は、タイの関係者に同じグラフを見せてCEOPの重要性を説得していましたね。1999年まで
は、まあGAMEの途中であったから、許します。でも、2001年になって、そのことについて
総括がないのは、企画段階で騙された人間として、許せない気がするのですけれど。
(笑)さて、その後、GAMEの6年間の観測研究を経て、どんな新しいことがわかったので
しょうか?」
これは困ったという心境です.現在進めている解析を論文に仕上げるまでは,もうしばら
く「同じグラフ」を使わざるを得ない者としては,どのようにお答えすればいいのかなと
思い悩んでいるうちに,チベット関連のお二人の研究者の方から下記のような応答があり
ました.
「特に積雪・土壌水分などの陸面状態がどうモンスーンに影響しているかを、より定量
的・定性的に明らかにし、さらにモデリング(と予測)に結び付けることはGAMEのかなり
具体的な目標です。その意味では、シベリアからチベット、熱帯での観測で、陸面と大
気・水循環の関係について、多くの新しい知見が得られたことは確かです。問題は、それ
らを今後どうより広域的な大気・水循環の変動、モンスーンの変動と結び付けていくか。
その部分は、正直いって、まだまだです。モデリングの役割が今後非常に大事になってい
くと思います。その部分へのかなりの集中研究は必要であると考えます。」
「ヒマラヤ:力学的影響,チベット高原:熱的影響 が顕著である事を考えると、積雪の
インパクトが大きいのはチベット高原 → 大陸内部と理解が進んでおります。」
お二人ともモンスーン,チベット研究の第一線の研究者でいらっしゃますので,研究の進
捗度をよく理解しておられ,そのお立場でのコメントして的をえていると思います.ただ
し,求められているのは「研究結果」は勿論のことですが,それに加えて,GAME全体
であれば,
To understand the role of Asian monsoon in the global energy and water cycle
The seasonal forecasting of monsoon rainfall and water resouces in monsoon Asia
に対して,何がどこまで「新たに」分かり,何が課題として残っているかを明らかにする
ことであり,GAME-Tibetであれば,
To clarify the interactions between the land surface and the atmosphere over the
Tibetan Plateau in the context of the Asian monsoon system.
というゴールにどこまで近づけたかを,整理して提示することであろうと思います.私が
よく参考にするのは,
P.J.Sellers and F.G.Hall: FIFE in 1992: Results, Scientific Gains, and Future
Research Directions, JGR, 97-D17, 19,091-10,109, 1992.
です.この中の"Summary of Results"に加えて,"Scientific Gains"に相当するものが今
後必要であろうと思います.
また,別の観点から以下のご意見もありました.
「各地域班でデータ公開の足並みが不揃いなのが心配です。このまま、特定の研究グルー
プでのみ資料交換が進むことは必ずしも健全では無いと考えます。」
このご指摘は非常に大事で,GAMEを企画するとき「なぜ4領域か?」という質問によ
く遭遇しました.「アジアモンスーンに与えるユーラシア大陸の影響を考察するには,大
陸を代表する多様な陸面での相互比較研究が必要」というのが,その答えでありました.
しかしプロジェクトが終わろうとする現時点になっても,使いやすい形でデータが提供さ
れているのはごくわずかな領域研究だけですし,データが公開されていないところが依然
としてあるのは事実で,このままでは個別領域研究の単なる集まりという非難を甘んじて
受けなければなりません.個別研究とプロジェクト研究の違いをぜひ理解いただきたいと
思います.
最後に,下記のようなコメントもいただきました.
「東アジア・東南アジア各国が本当に望んでいるのもまた、年々変動のメカニズムの解明
(ひいては予測)、更には長期的気候変動の予測だと思います。(現に、小池さんも、こ
の餌で純情なタイの役人を騙していました。見たぞ。(笑))ですから、カウンターパー
ト各国と末永く緊密な協力関係を築いていくためにも、日本の研究者が「自分の興味関心
が大切」「当面の研究成果が出ればいい」という考えだけに留まらず、すぐには研究成果
として現れないが社会的に意義がある大きな課題に取り組む姿勢を常に持ちつづけること
が求められるのではないかと思います。」
商売柄,私はどうしてもメカニズムの解明より,水資源の「予測」に結びつく応用化に興
味があり,知らず知らずのうち「ペテン師」に成り下がっているのかもしれません.CCSR
の方から「予測の向上なんて身の程知らずもいいとこ」とお叱りを受けて以来,できるだ
け,「予測向上のために必要な研究」(大気−陸域−海洋をむずぶ衛星および地上観測シ
ステムの構築,4次元データ同化技術の開発,ダウンスケーリング手法の開発など)と言
うようにしておりますが,今世紀半ばに予想されている深刻な水不足を前に,私は「予
測」精度の向上がこの危機を乗り越えるもっとも有用な手段と考えており,もうしばらく
「ペテン師」を続けようかと思います.